劇団ひとり著『陰日向に咲く』


今頃読んで、面食らいました。こんなにユーモアとペーソスの漂う快作だったなんて!
文章力は週刊文春の連載エッセイでそれなりにわかってたつもりでいたが、あくまでもそれなり。彼の筆はエッセイよりも小説でこそ冴え渡るんじゃなかろうか。エッセイだとやや妄想と執着がすぎてくどく思われるところも、小説ならば描写の厚みや人物の存在感に巧く生かされる。
陰日向に咲く』は連作短編集。ゆえに短編ごとに主人公は異なり、ちょっぴりの連鎖が全編をつないでいく。そのつなぎ目が絶妙で出すぎがなくていい。それぞれの語り部は「道草」ではホームレスに憧れる中年サラリーマン、「ピンボケな私」では20才のフリーター女、「Over Run」では借金まみれのギャンブラー、「鳴き砂を歩く犬」では不運で一途な女へとバトンタッチしていく。著者がこれまでに交わりを持った友人知人、あるいは窓越しにみつけた通りすがりをスクラップしたものか。豊富な人間観察が本書へ見事に妄想熟成されている。ただ一編、「拝啓、ぼくのアイドル様」のアイドルオタクだけは著者本人の投影のような気が…。
短編はいずれも展開がスムーズでピリッとスパイスが効いている。さらに、本書の締めはいやらしいほどに小気味よい。シテヤラレました、という感じ。処女作の書き下ろしでこの完成度とはちょっと呆れた。
ところで読むまではまったく疑問に思ってなかったんだけど、映画版の主役が岡田準一って? いったい彼はどこにでてきたの。まったく思い当たらないよー。