絲山秋子著『海の仙人』

ファンタジーは、ヒトのかたちをしてあらわれる。見えるひとと見えないひとがいるけども、たいていのヒトにはみえるらしい。で、誰もが会ったとたんに「ああ、ファンタジー…」と前にあったことがあるような既視感をおぼえるのだ。リビングに砂を敷き詰め敦賀の海辺の町でてろてろ暮らす僕としばらくすごすことにした、ファンタジー。その訪れや、運命の女(ひと)との出会いとか、東京で勤めていたときの女友達とかが、ぼくの生活のささやかなしじまとなる。
不思議な小説でしたねー。初めて読む作家さんのだと話はどっちにころぶのかわかんないので、よけいに不思議で。ファンタジーなんちゅーもんがいきなりでてきたりするので、へえ、ファンタジー路線なのかなぁと思いきや、その実、意外とヘビーな展開をみせたりして、でも文体がぜんぜんヘビーじゃないのでするりと読めちゃう。ぼくの幼児体験とか、報われない片思いとか、切ない別れとか、う〜ん、アタシとしてはそんなに話が展開せずに、ずーっとファンタジーとぼくのへんちくりんな日常を読んでいたかったような気もします。だから前半が好きかな。
柳のような一人称のぼく、ロードムービー的な展開、ひっそりと語られる性的なもの。なんとなーく村上春樹さんっぽいねと思いつつ。