『シェフと素顔と、おいしい時間』

腐れ縁を断ち切るためメキシコを目指す厚化粧女と、別れた妻に会いにミュンヘンをめざす未練男、天候不順とストライキシャルル・ド・ゴール空港で立ち往生した無関係なふたり。携帯電話の貸し借りをきっかけに微妙な係わり合いがはじまって…大人のラブロマンス。
ハリウッド映画みたいな恋がしたいけど…という女の溜息(モノローグ)からはじまります。商売女と言われても納得してしまうような派手でうわついた雰囲気のジュリエット・ビノシュ。病的に神経質、食べ物のにおいは嗅ぎまくり、「アメリカはバカ」「フランスは嫌い」と不満ばかりで感じが悪いったらありゃしないジャン・レノ。さえなくはないけれど格別魅力的というわけでもない中年という設定のふたり。役者本人はどちらもとても魅力的なので、レノはワカメ頭(かつらか?)で、ジュリエット・ビノシュは厚化粧でその魅力をあえて消して、普通の中年男女の非現実的な係わり合いを現実っぽくみせようとしています。
でも途中でビノシュが化粧をおとす。すると彼女の素顔の透明感がきわだって、レノは「はっ」と見直すのでした。そしてレノも負けじとワカメかつらを……ってことはないですが、少しずつ自分の過去や気持ちをオープンにしていく。父親との葛藤とか、別れた妻への未練とかプライベートなことをするすると語ってしまう。なんでこんな女に俺はなんでも語っているんだ、ゆきずりだから話せることもあるってことか。相手がオープンになってくると女も嬉しいモンです。そういうふうにして見知らぬ男女はどんどんと心を近づけていく。ゆっくりと、確実に、ときどきはさっと引きながらも。
ロマンティックな雰囲気はないので、もしかすると退屈かな。ぬるいっちゃぬるい。でも最後までみてると「なかなか素敵だったかも」なのでもありました。なんかね、フランス映画ってもっと日常的に「まず寝てみる」という印象でいまいちなんだかな〜だったりするのだけども、この二人をみていると、遅々としてすすまぬロマンス、ロマンティックのかけらをぶざまに粉砕しちゃうとことか、神経に障らない程度の奥ゆかしさとだらしなさとか、このまま桃井かおり柄本明あたりでリメイクできそうな、共感度なの。