雫井脩介著『犯人に告ぐ』

6年前の幼児誘拐事件で人質殺害犯人不明という最悪の事態を招いた責を問われ左遷された巻島警視。膠着した5歳児連続殺人事件の捜査のため最前線へと呼び戻され、前代未聞の劇場型捜査を開始した。
劇場型犯罪というのはよくあるが、劇場型捜査とは目新しい。幼児連続殺人というテーマは実にやりきれないので、あまりその言葉を使うのはふさわしくないのかなと思うけれども、やはり小説としてはまさしくこの一言につきる。いやはや面白かった。
バッドマンを名乗り犯行声明を送りつける犯人と、彼を罠に掛けるため敢えてテレビのニュース番組に生出演し犯人への呼びかけを行う現職刑事の駆け引き。捜査機密の漏洩や、マスコミからの突き上げなど、追い詰める側も一枚板ではなくさまざまな思惑が入り乱れる。人物造詣にそれぞれ手抜かりがないので、物語に厚みがある。