乃南アサ著『嗤う闇』

墨田区周辺で発生した連続婦女暴行事件。未遂被害者の女性は通報者である男性に襲われたのだと主張する。新聞記者という公正を求められるべき職業にありながら、彼女はなぜ一面識もない善意の第三者を落としいれるようなことを!? 表題作『嗤う闇』を含む他3話収録。
『凍える牙』『未練』と機動捜査隊としてバイクを駆り初動捜査から犯人追尾までまさに身体を張ってきた女刑事音無貴子が所轄署へ赴任しての、シリーズ第三弾。常に現場にまっさきにかけつけた機動捜査隊の仕事と違い、所轄の巡査部長に昇進し初動から一歩引くことになったことに寂しさをおぼえ、いまだに男主義根強い署内の人間関係に苦笑しつつも、事件にむかう姿勢は常に真摯で穏やか。かわらない。あまつさえ余裕も生まれたようだ。
管轄区に下町を含む比較的小規模な所轄ということで街の瑣末な事件がもりこまれ、そこから浮かび上がる市井の人々の機微が細やかにえがかれることで、小説の深みとおもしろさを増している。警察小説としての読み応えはじゅうぶんだ。そのぶん音無貴子の爽快な活躍ぶりはいくぶんなりを潜める。
ステディな彼氏とのつかず離れずのサイドストーリーが盛り込まれているとこが嬉しい。信頼し依存しあわないほどよい関係は羨ましい。どんなに話に行き詰ってもスカーペッタとベントン・ウェズリーのようなことにはなりませんように。
アタシはそれで検死官シリーズ(読み続けるのを)やめました(笑)。