高野和明著『K・Nの悲劇』

新婚の夏樹果波はフリーライターの夫との第一子を授かるが、経済的な理由から今回はあきらめることに同意する。ところが堕胎手術の当日、分娩台で錯乱の発作を起こし、その後まるで女の霊に憑依されたとしか思えない奇妙な言動をくりかえすようになる。彼女を診断した精神科医は、子供を守りたい無意識の意志による解離性障害と診断した。だが心霊現象の疑いを拭いきれない夫は事実関係の調査をはじめ、そして驚くべき事実が……『十三階段』の著者による長編サイコミステリ。
奥さんが錯乱するほど産みたいと無意識にでも思っているのなら、それがわかった時点で経済的な理由はなんとでもして産ませてやりゃいいじゃん、親に相談するとか、切り詰めた生活に戻るとかしてさ、とアタシは女の立場から思ったもんで、前半は夫の身勝手さにムカっ。
でもまあ、たまたま出版してもらったハウツー本が予想外のヒットをして、浮かれてマンションを買ったばかりだったからなあ。これからしばらくは楽しいディンクスの生活が続くと信じていたんだろう。といってもフリーライターで収入は超不安定、そのくせマンションの借金返済プランとかは超ギリギリで皮算用。気持ちはわかる、若いもんね。でもやっぱなぁ、フリーライターのくせに甘い!甘すぎる!!といわせてもらおう。
それでも、事態を招いた責任が自分もあるという自覚はあったし、本当に奥さんのことを大事にしたいと思っている気持ちは本物だったみたいなので後半は救われる。いいダンナでよかったよとほっとしました。
ホラーとしてもサイコミステリとしても中途半端だけど、幸せの絶頂からちょっとしたつまづきを経て絆を深める若夫婦の成長の物語と思えばおもしろい。
内容にタイトルがいまいちそぐわん。もうちょいなんとかならんかったのか?
ところで著者の高野氏、『十三階段』『グレイブデッカー』『幽霊人命救助隊』そしてコレ。路線はいまだ尻定まらずふうだけど、心霊モン好きなのね。次回作も幽霊でてくるんかな?