香納諒一著『夜空のむこう』

弱小編集プロダクションを中心にした人間ドラマ、全14話構成。
春は桜特集、夏は祭りと花火、冬はクリスマス。なにもなければ映画、犬猫、スイーツに、お台場、六本木ヒルズ、etc…発売されても1ヶ月もたたないうちには店頭から姿を消し、ざっと目を通したらすぐに放り出されてしまう情報誌。その泡沫のさらに泡沫的な企画ページを請け負って取材から編集までをこなし限界まで校了めざして奔走するのが弱小編集プロダクションの現実らしい。さまざまなエピソードを通してみえてくる、出版業界の末端の職場風景と人間模様がとても興味深かったよ。
小説すばるに掲載された連作中編14作をまとめた本書はかなりぶあつく読みでがある。第1話「長い夜」から第14話「夜空のむこう」へといたるまで4〜5年の時が流れ、登場人物の関係も人生も確実に変貌していく。全14話構成はテレビドラマ化するのに最適だが、派手派手しい展開はないのであまり視聴率は望めそうもないからムリかな。
「夜空のむこう」のタイトルには象徴的な意味あいのほかに、実際に仕事で貫徹し朝焼けを迎えるなんてことがよくある彼らの生活実感をもあらわしているようで。下請けはつらいよ、みたいなぼやきが聞こえてくる。