内田康夫著『イタリア幻想曲 貴賓室の怪人2』
トスカーナ地方の古城ホテルに届いた「貴賓室の怪人に気をつけろ」という謎の脅迫文。豪華客船飛鳥で世界一周中の浅見光彦が、ドイツ、イタリア、ヴァチカンを巻き込んだ国際謀略に挑む。浅見探偵世界進出（？）第二弾。
どうせ一生縁がないであろう豪華客船の内部を浅見のおのぼり視点でのぞけるのがありがたく、客船はだめでもピサの斜塔ぐらいならそのうち登りに行ったるぜ、と近頃錆びつきがちの旅心も再燃した。ミステリはミステリで、聖骸布の秘密、日本赤軍の残党、30年前の兄・洋一郎との因縁譚もありで飽かせることなく廻る。旅情ミステリ作家の面目躍如。そろそろネタがつきかけちゃったかなという浅見シリーズファンの心配を一蹴、守備範囲を海外にまで広げてくれるとは、うううう、著者のやむなき好奇心とバイタリティに感謝。ぶらぼ。豪華客船の旅は一度乗ったら世界を一周するまで終わらない、浅見光彦探偵の次なる寄港地はどこか、俄然楽しみになってきた。
【日本赤軍】
社会派的な視点から、現在のアルカイダのテロに警戒すると同じような状況が、わずか30年ほど前には邦人の手によって世界にもたらされていたことがやんわりと指摘されている。日本赤軍といわれてもノンポリ以後に学生時代を送ったアタシは、浅間山荘事件の白黒のＴＶ中継*1をワクワクしながら見てたことぐらいしか記憶にないし、その前後の国際的なテロ事件は子供だったので当時はあまり耳に入らなかったのだと思う。2000年に重信房子逮捕なんてのがTOPニュースになった時に「誰？ 赤軍派？ それいつの時代のはなしだよ」なんてトボケた反応をしてしまったし…。
過去の事件を列記してみると、
- 1970年3月 よど号事件
- 赤軍派学生によって羽田発福岡行き日航機３５１便（よど号）が乗っ取られた。犯人らは北朝鮮へ渡航
- 1972年1月 浅間山荘事件
- 1972年6月 テルアビブ空港銃乱射事件
- 日本赤軍3名が空港で銃を乱射し、犯人2名を含む26名が死亡、73名が重軽傷
- 1974年7月 パリ事件
- オルリー空港で偽造旅券と偽造ドルを所持していたスズキが逮捕され、日本赤軍がヨーロッパの商社や大使館を襲撃する同時多発テロを計画していたことが発覚
- 1974年8月 ハーグ仏大使館占拠事件
- オランダのハーグのフランス大使館に日本赤軍ゲリラが乱入、大使らを人質に拘留中の「スズキ」の釈放と身代金を要求。フランス当局は要望に応じ、犯人達はスキポール空港からフランス航空機で行方を絶った
- 1974年8月 三菱重工ビル爆破事件
- 東京・丸の内の三菱重工ビルが爆破予告電話直後に大爆発し８人死亡。1ヶ月後に東アジア反日武装戦線による犯行声明が出された
- 1975年8月 マレーシアの米大使館占拠事件
- 日本赤軍がマレーシアのアメリカ大使館とスウェーデン大使館を占拠、日本政治犯の釈放を要求。超法規的措置で5名釈放（要求では8名）
- 1977年9月ダッカ事件
- 日航パリ発東京行きの日航ＣＤ８型機がインド・ボンベイ空港離陸直後に日本赤軍によってハイジャックされた。超法規的処置で6名保釈（要求では9名）。
ざっと調べただけなので漏れがあるとは思うが、これだけでもそんな事件を日本人が起こしたとは、ぞぞっ。特にテルアビブの銃乱射事件はまったく関係のない一般人を多く巻き込んだという点で赦しがたい。ただこれで、親しみを持つわけじゃないがアルカイダがそんなに遠い存在じゃないのかもしれないという気持ちにはなった。それがいいことなのか悪いことなのかわからないけれども。
【古城ホテル・ヴィラ・オルシーニ】
事件の舞台となった古城ホテル・ヴィラ・オルシーニは、トスカーナ地方の人口500人のカッシーナ・アルタというちいさな村に実在、オーナー一家も実名のまま登場している。本の中でけっこうゴムタイな性格設定をされちゃっているので本人たちに怒られないのかと。その心配は、オーナー夫人（邦人）が「だいじょうぶです。みんな日本語読めませんから」と笑いとばしてくれたそうで、さすがポカポカ地球家族*2の若女将はさばけています。ヴィラは16世紀の貴族オルシーニ家の元別荘をドイツ人オーナー父子が10年掛けてこつこつ修復し、2001年7月にホテルとしてオープンしたばかり。「16世紀の貴族の館に滞在してトスカーナの田舎を満喫」なんてプランだけでも「CREA Traveler イタリアの田舎を極める」みたいなのに、さらにオーナー夫人が日本人ときた日にゃ遠来の邦人も旅装を心から解いてくつろげそうな予感ありで、本書をきっかけに日本からの浅見ファンが大挙して押しかけるに違いなかろう。邦人で混んでいるトスカーナの古城はちと興ざめだが、ところで内田のおっちゃん、いくらか袖の下をもらっとるん？なんてね、そんなわけはなかろうが下手な広告よりも宣伝効果大。アタシもいつか、宣伝効果の汐が一通り引いた頃にでも。
ホテル・ヴィラ・オルシーニのHP http://www.villaorsini.com/ （トップから日本語を選択）
