金原ひとみ著『蛇にピアス』

初めてアマのスプリットタンを見た時、自分の中の価値観が崩れるのがわかった。沸点の低いパンク青年アマと同棲する奔放な少女ルイ、サド彫師シバの三角関係と成長を新宿を舞台に描いた恋愛小説。芥川賞受賞。
たまたま新宿のバーでママさんから、新宿界隈を徘徊していた著者の略歴を酒のつまみに聞くことがなければいまだ手にすることはなかっただろう。もともと純文学にも芥川賞にも興味がない。そのときにどんな話を聞いたのか具体的なことはすべてアルコールとともに揮発してしまったが、すぐさまこれは読みたい、読まなければと強く興味を促されたことだけはきっちりと記憶していた。図書館で予約して手元に届いたのは3ヵ月以上待った後。
最初の数ページをまず拾い読む。冒頭、舌のスプリットをどう実現させるのかというくだり。さらりと綴られた痛そうな描写にぞっとする。それは優れた表現力の証明でもあるが。嫌悪を抱いて本をいったんは閉じかけ、我慢してさらに読みすすむ。そしてすぐに魅了され没頭している自分を発見した。鮮烈、放埓、エッジ。そんな言葉がつぎつぎと頭に浮かぶが、この驚きを描写する能力が自分にはないことが歯がゆい。ルイが身体改造に突き動かされていくように自分も憑かれたように一気に読了し、ふーっと息を吐き、痺れた脳を現実に戻すためとぽとぽとコーヒーを淹れに立ったのだった。ふー。一筋縄ではいかない、強烈な個性/感性/才能/etc.

「彫っている時、お前の事を殺したくなったらどうしよう」
「いーんじゃない? それはそれで」

欲望の赴くままに流されるルイ。アマとシバ、破滅タイプのふたりの愛をそっくり体と心で受けとめるルイ。最後には彼女がマリアのようにもみえてくる。愛なのか母性なのか。女は強く男は弱い。

「人間に命を与えるなんて、神様は絶対サディストだ」
「マリア様はMだった?」

性描写は過激で辛辣。卑猥な単語は惜しみなく大股開きにバンバンと。だが過剰でなく、嫌悪感を覚える猥雑さもない。むしろ必然。二十歳の女性が書いたとはね。うーむ、やられた。とてもかなわん。睦言に交わされる会話も一筋縄ではいかない、鋭さで…。
うー、ダメだダメだ。うだうだ語るモンではない。とにかく読め。読んでみ。ソンはしないと思う。