横山秀雄著『看守眼』

被疑者の服役中の表情に違和感を覚えた刑務官が、退官後もその未決事件に拘り続ける表題作「看守眼」他5編、硬派なミステリ短編集。
語り部が多種にとんでいる。「看守眼」は、県警教養課(県警機関紙を編集している)に所属する26歳の女性事務官が退職者の手記を集めているところからはじまる。他編では、警察HPを作成する県警情報管理課員(「午前五時の侵入者」)だったり、家裁の家事調停委員(「口癖」)、新聞の割付・版組みを行う整理記者(「静かな家」)、知事の公的秘書の役割を担う県庁秘書課長(「秘書課の男」)と続く。共通しているのは、組織の中でいわゆる主流や花形といわれる職種からはずれた人物に著者が目を据えている点だ。唯一「自伝」ではフリーライターだが、これもはみ出し者と言う点ではその延長線上にあるといえるだろう。世の中にはいろんな仕事をしている人がいるものだ。ミステリ要素以上に、こうしたさまざまな職業人の業務内容や知られざる内部事情などが興味を繋ぐ。
一編一編はそれなりに面白いがただの短編集にすぎないのが興をそぐ。「第三の時効」のように組織(警察、新聞社など)を舞台にした連作物にこそ著者の真価が発揮されるように思うのだが。傑作「第三の時効」「クライマーズ・ハイ」「半落ち」には及ばず。