本日のよろこびごと。(972)


ワシオ君 チョコの歯形に 何思う?(喜) 
ドラマの感想〜♪

  • 「デート」第8話

みんなが抑えてきた本音を吐露させまくってなんかうるうるしちゃう回でしたね。
面白かったけれども、少し物足りない。思わず吹き出しちゃうようなとこがなかったからかな。奇矯な格好をせず、アヒル口もしなくなった依子なんてもうほぼ普通のプチコミュ障な女性にすぎないし。初期「デート」の異次元感覚や異様な疾走感、「とんでもねー物を見ちまった!」的な驚嘆がちと薄れてきてしまったことがなんか自分としてはとてもさみしいです。まあしゃーないか、変わっていくことに意味があるのだろうし。
「恋なんて無価値です。恋愛至上主義的価値観を押し付けないでください」
冒頭で依子はこう言い放ってワシオ君を部屋から追い出すが、直後に母(の幻)が指摘する。
「正解よ。どうせ恋なんてできやしないんだから。挫折するのが目に見えているんだから踏み込むのは愚かだわ」
もちろんそれは自分の心の代弁だ。
己の能力と価値観に絶大なる自信を持ち、他者との相容れなさを従容と受け止めていた、自尊心にあふれた強い依子はもはや幻となってしまった。閉じ込められていた自信のない女性の顔がどんどん表へ出てきてしまって、弱弱しい。その根底に劣等感を抱えているのだということを我々はすでに知ってしまっている。
依子の母はあまりにもすべてにおいて完璧だ。学者としての非凡な能力、市役所勤めの平凡だが優しい男性と結婚し、家事も完璧で、早世するときにはひとり娘の行く末にまで思いを馳せることができ、って完璧すぎるだろー! 正直周りの人間が劣って見えていたことはあっただろうし、傲慢で典型的な冷酷エリートになっていたとしてもおかしくないのに。口が達者で周りを言い負かしちゃうところはあった、その程度。度量もデカい。
そんな母をことごとく超えられないことで、挫折まみれになってしまった娘。結婚へと邁進する理由のひとつに、「父を泣かせたくない」と過去話において彼女が言ったことはその通りだとしてもそればかりでもなかろう。依子は母のようになりたいのだ、たったひとつのことでも。
母のようにはなれない。だったら…という劣等感を裏返して拗れまくったのがアンドロイド依子だった。しかし人形としての殻にほころびが生じてしまった今、依子は形式だけでもチョコレートを渡すことができない。
渡せない依子、受け取らない谷口。
「僕らはそんなんじゃないから」
「そうですよ」
明言しあうことであえて心に封印をしてしまう似た者同士。どちらが先に気持ちに気づくのか。やはり、受け取るために数歩歩み寄って手まで差しだした谷口だろうか。
河原には幼少時と同じように渡せなかったチョコをかじる依子いて、頬につたう涙。そこへ感受性の塊である谷口が、何かを感じてやってくる。
古今東西の漫画小説映画に精通し、人情や恋愛や感情に関しての知識だけは肥大している彼。すべては2次元上の経験値とはいえ、井伏鱒二の「山椒魚」を生物に分類するほど小説とか読んでねぇ依子に比べれはものすごいでかい差です。
「君が本当にしたいのは結婚ではなくて恋なんです。恋がどんなものなのか人一倍知りたいのに、できないから心にふたをしていたんです」
かくして導師谷口に導かれ、依子は「恋をしたい」というフォースを得てワシオ帝国攻略へと向かうのだった。
そこまでが今週。あ、もしかして今週が少しさみしく感じたのは、予告ですでに知ってしまった今週の結末へいかに集約していくかだけの回だったからかもしれない。結納のシーンは結末までの和みとつなぎにすぎず。これまでのハイクォリティな脚本であれば、結納にも伏線や意味合いが巧みに隠されていて落としどころともっと有機的に結合したのではなかろうか。そんなことを少しばかり思ってしまいました。
さて今週のワシオ君は、
泣いて喚いてみっともない姿を見せた。彼の依子を想う気持ちは、口先ばかりの軽いものではなくこんなにも真剣だったのだね。ちょっと感動。なのに「どうして自分じゃダメなんですか?」への応えが「谷口さんとは等号で結ばれているけれど、あなたとは不等号だから」とは。さらに「本当は恋してみたいんじゃないですか?」と何度も何度も何度も口にするたび一蹴されまくりもし。ああワシオ君、ワシオ君。でもそのしつこさも無駄ではなかった。依子の心にボディブローのようにじわじわと沁みこんで効いていた。だから、依子の心のふたを開けたのは谷口だったかもしれないけれど、ゆるめといてくれたのは確実にワシオ君、君だったのだよ。そんな努力がついに報われるのか、感無量。来週予告を見ていたら、もうそーいう終わりでもいいかもなんてね。
でもこれは少女漫画だから最初に約束された相手(谷口)と結ばれなきゃダメなのです。