本日のよろこびごと。(656)

映画『アルゴ』


米国愛 煽られたけど アタシ日本人…(喜)
レディスデーで映画を見てきたよん。その感想〜♪

1979年イランのアメリカ大使館占拠事件でCIAが人質救出のために弄した策は、架空のSF映画ロケをイランで行うというもの。ロケハンスタッフとして大使館員6名を脱出させようというのだが…実話をもとにしたスパイ大作戦
はあー…すごい面白かったぁ…。
映画は2時間越え、だが冗長と感じたところはいっさいない。
冒頭10分ほどかけて、英米とイランの複雑な関係と、アメリカ大使館占拠事件の発端がドキュメンタリータッチの映像によって一気呵成に平和ボケしたアタシの脳へ叩き込まれる。リアリティある映像でグイッとひきこまれ、身体が硬直する。
そこから一転、米本土での作戦準備中のハリウッドに切り替わる。コスプレ美女と特殊メイクの怪人が戯れている、いかにもなB級SF映画の、のほほんとした撮影風景。デブな特殊メイクアーティスト、ハッタリがプンプンにおう禿頭のプロデューサー。彼らのもつグロテスクなほどの平和感で、イランでの緊張がたちまち緩和される。
緊張と弛緩の連続で気が付いたら終わっていた、終わってホッとしていた。適度なユーモアと息抜き、その緩急づけが恐ろしく巧妙で完全に監督の手のひらの上にのせられてしまっていたのだ。
さてストーリーにも触れよう。
荒唐無稽なアルゴ作戦。日本でなら絶対に採用されないだろうし、採用以前に発想するとも思えないのだが、米国はその点進んでいるのだね。
「もっといい救出策はないのか?」
「全部最悪だ。最悪の中のベストがこれだ」
という紙一重で選択されてしまう。おいおい、マジかよ。
イランへ飛ぶCIAエージェント・ベン・アフレック。作戦対象の大使館員らとイランで合流したものの、
「俺が脱出させる」
「こんな方法でか? 捕まったら銃殺刑だぞ!」
とおきまりのように揉めて、でもほかに方法もないのだしと、決行。
あとはスパイ大作戦だ。天井から宙づりになって赤外線センサーをかいくぐり、通気口とダストシュートを伝って脱出し、チャドルとベールで回教徒の女性に化けてモスクに隠れ、走るバイクを乗っ取り、電車の屋根の上に張り付き、スーパー柔術で追っ手を蹴散らし、アッと驚くトリックで目をくらまして、ラストは滝つぼへ…なんていうことは本作ではいっさいございません。派手派手しさはいっさいないのですよ。
着想こそは『架空のSF映画「アルゴ」を撮影する』という奇をてらったものだとしても、実行となると実際はそうとう地味なのだね。本当に地味。それなのに映画鑑賞者の緊張感は延々と保たれる。というのもつまり、見せ方、恐怖心の駆けどき引きどきが、クソっ、やたらと巧いんだ!
巧いっ、巧すぎる。なんでこんなに巧いんだー、べんあふれっくーーーーっ!
ネタバレになるのでこれ以上は書けません(笑)
でもこの一作でベン・アフレックが一番好きなアメリカ人俳優か、一番好きな現役監督になる可能性はじゅうぶんある。アタシは両方ともそうなりました。

  • 余談

大使館へ押し寄せる群衆シーンで、先だっての中国での日本大使館や日本資本のデパートなどが襲われたニュースシーンを思い出さずにはいられませんでした。この過激すぎる中国人のアクションに対して日本政府は抗議をするという平和的な対応をし、静観をする大人の対応をしたつもりになっている。これについて週刊新潮で、あるコラムニストがヨーロッパ人の視点を考察して、
「あれだけ中国人が暴れるのだから、きっとそれだけ悪いことを日本人がしたのだと考える人もいる」
と書いていました。日本人のあえて騒がず泰然自若と構える、言わないでもわかるだろうという美徳は国際社会ではどう映るのかなと考えさせられます。目には目を的な過激なリアクションを奨励するわけではなく、アピールが必要だという話。
それと、もうひとつ。映画『アルゴ』を見終えたばかりのときは、
「ああ、良かったー」
と単純に思ったもんです。アメリカ万歳!と。アタシ日本人なのにね。映画館をでて歩きながら、ふと視点を180度変えてイラン人の立場で見たらどうだったろうかと、
「ちくしょう、悔しくてしょうがない。もっと早く○してしまえば」
となったのでした。いろいろ考えさせられます。