地震のこと(7)


小学校はまだ下校前、教室に残っていた生徒が順々に帰宅を促されている最中で、正門前には迎えにきた母親らがたむろしていた。校庭は水びたし、踏み台のようなもので校門から校舎まで即製の足場。
近隣住民に割り当てられた教室へ招じ入れられたのは少し経ってから。先生のひとりが気を利かせてテレビとエアコンをつけてくれた。
小学生用の低く小さな椅子に居心地悪く腰を落とし、ひたすらニュースに見入る。
「東北地方が大きな津波に襲われました。被害の規模はまだ掴めておらず、犠牲者は数十人か数百人、さらに増える可能性もあります。行方不明者多数」
NHKのアナウンサーが落ち着いた声で同じ情報を反復する。目が離せない。*1
当初4人だけでひっそりしていた教室も徐々に避難民が増え、最終的には30人ほどに。やや手狭感、子供らの声が響くようになりテレビの音声が聞き取りづらい。彼らは早くも、持参したDSなどゲームに夢中だ。
今夜はここに泊まることになるのだろうか。
心配性ママがストレスからくる胃痛を訴え、鞄から取り出した胃薬を服用していた。
「飲まれます?」
「いえ、ありがとうございます。大丈夫です」
学校は断水していた。飲み水は教室の前に置かれたヤカンと鍋のなかの水を紙コップで。トイレには、“使用済ペーパーをビニール袋*2に捨て、便器はバケツの水で洗浄してください”との貼り紙。
先生方の尽力でこうした避難所の態勢がすばやく整えられていく。

*1:発生日時点では正確な被害規模は把握されておらず、行方不明者1万人超えの事実がもたらされるのは翌日以降

*2:可燃ごみの大袋が個室ごと便器横の壁にガムテープで固定されていた