地震のこと(5)


再び外へ。
噴出した泥水はもはや川というよりもそこらじゅうを覆い尽くしはじめているし、余震はあいかわらず建物や街灯のそばを危険と感じるほど強い。
上層階に住むAさん母子と落ち合い3人でひとまず公民館へ行ってみることにした。公民館に隣接して交番もあるしなんとかなるかもと期待して。
バリアフリーを標榜していた平坦な歩道はあちこちで隆起あるいは陥没し、盛り上がってガタガタになった縁石、めくれて割れた敷石などが散乱している。もちろん無事なところも多いのでそこを選んで歩くが、車道は泥水で覆われて地表を目視できず、歩行に支障をきたす状態。
信号機は生きており車も数台が走っていて、歩行者は泥と凹凸に足をとられながら車両に注意しつつ横断しなければならない。だけど、こんなときでも人は信号を守るんだね。
公民館につくが、ここも液状化を免れてはいなかった。建物全体が数十センチ浮上して、エントランス部に崩れたステップやポーチの瓦礫が散乱しているのが見てとれた。避難所としては使えないよ、と中からでてきた職員らしき人がバツ印のサインをよこす。
交番の前には30人ぐらいが固まっていた。中にはしゃがみ込んでいる人も。婦警さんが一人ふんばり、落ち着いてくださいと激を飛ばしてはいたが、現状がどうなっているのか誰もわからず、皆が拠り所となる情報を欲しがっていた。もちろん私も。人づてで東北地方が震源らしいという事実を知ったのはたぶんこの時だったかと思う。
その前にもスピーカーによる市の緊急防災放送が2、3回あり、
「ただいま強い地震が発生しました」
そんなの知ってるよ!と全員が心の中で突っ込みを入れていたんじゃなかったろうか。
今はただ、とにかく余震さえ収まれば…。
ここでようやくラジオを持ってきたことを思い出しスイッチを入れた。
「――先ほど東北地方で非常に強い地震が発生しました。宮城県栗原市震度7。太平洋側の沿岸地域で10メートル以上の津波が予想されます。もうすでに到達している地域があるかもしれません。海沿いの方は急いで高台に避難してください。繰り返します――」