地震のこと(3)


住民がぱらぱらと外へと集結しはじめた。といっても戸数に比べると意外なほど少ない人数、30人弱。平日昼間ということもあり構成はほぼ女性・高齢者・子供の姿がめだち、成人男性の姿は極端に少ない。
互いの動揺が伝染しないようにと意識したわけでもないのに皆が少しずつ距離を置いて、マンションや空や地面に見入っている。大きな声をあげるものはいない。泣き声もない。
ただ茫然としてる…そのとき、
「余震!?」
「大きい!」
またグラグラきた。
その後も本震ほどではないものの普段の頻発地震に比べるとかなり大きめの揺れが何度か続いた。ゆさゆさとマンションが巨体を躍らせ、地中の泥水が湧く速度を早める。最初は小さな水たまり、やがて低地を探して溜りはじめ乾いた地面を浸食し、みるみるうちに泥の川を作りだしていった。
足元に迫る泥水をよけようと植込みの縁石にあがったり、移動したり。
寒いな…。
かれこれ20分以上外にいた計算か。玄関脇にいつも掛けている上着を手に取る余裕すらなく室内着のみにくるまれた身体には、3月の外気が体にしみてきた。
雨脚は強くなくとも、やはり雨は冷たい。
隣棟からやや遅めに退避してきた家族連れがビニール傘を貸してくれた。家じゅうのありったけの傘をかき集めて持ち出したもののひとつを私の手に握られせてくれたのだ。人の手のつながりのようなものが、とてもありがたい。
「そろそろ余震も収まってきましたかね」
「いやあ、びっくりしましたね」
「本当に」
「あ、雨が…やんだみたいです」
同じ階段を使う年配女性や主婦らとわざと軽い口調で現況を声にしてみる。気を紛らわそうとして、だけど、
「実は足がふるえちゃってます」
「私もです。竦んじゃって」
恐怖が人を近づけるこの妙な連帯感。ほとんどご近所づきあいというものをしていないので実は顔見知りでもないのだが。
そうこうするうちに余震がやや収まってきた?
「どうします? いったん中に入って貴重品とかをとってこようかと思うんですが」
着の身着のままだし、とりあえずそうしようということになった。