本日のよろこびごと。(110)


球磨子…すげー(喜)
野村芳太郎版『疑惑』をDVDで鑑賞したら、やっぱすげーの。はじまって10分もたたぬうちにぐいぐい映画の中へ引き込まれてラストまで息を呑んで見入っちまいました。たいていのDVD鑑賞だと一時停止してトイレいったりお茶を入れたりとかしちゃうんだが、一切なし。隙がなかったもん。すべてのカットに必然性があって、流れを止める気にならない。本編126分をまったく長いとも感じなかった。
桃井かおり=球磨子のクソ女としてのリアリティはハンパないね。嫌な女すぎてイライラするどころか、ここまでくるといっそ清清しい。岩下志麻=弁護士の凄みもハンパなかった。資生堂花椿」から抜け出してきたようなきれいなお顔がこわいったらないんです。それに比べりゃ男性陣がちと弱いねー、細いねー。小林稔侍もまだこのころは細かったのねー(ってそれは違う細さ)。
製作は1982年とジャケットにあるので28年も前、なのに古臭い感じがまったくしなかった。松本清張の描く昭和という時代背景を、空気までも含め緻密に再現しつくしたという感覚で見れてしまう(撮ったのが昭和だから再現じゃねーのに)。キャスティングにも息を抜いたところがなくて、証言台の山田五十鈴よかったねー、見事というよりほかになかったなぁ、中谷昇のEDシーンもふっきってたなぁ、チンピラ鹿賀丈史も、柄本明も…もう感想はすごいすごいしかないわ。つまるところ一番すごいのは野村芳太郎ってことかなぁ。
これは冤罪は作られるという怖さを訴えた映画なんだよね、たぶん。冤罪の汚名を着せられる人間が「実はいい人なのにかわいそう」どころか正反対の「誰もがこいつが有罪であればいいのに」と感じさせるヒールであるということが、この「疑惑」というドラマの一番のポイントであり、エグイところ。何も知らない観客は「球磨子が犯人に違いない」という先入観からスタートして、「球磨子がいかにして言い逃れるのか、言い逃れさせたくないけど、きっとそうなるんだろう」と思ってハラハラと裁判を傍聴する。そして最後はちょっと納得がいかない気持ちになる。自分たちが知らず知らず冤罪に加担する仕組み。柄本明=新聞記者は「世間の正義と、弁護士さんの正義は違う」というようなことを言ってたのも苦々しい。
最後にラストの球磨子の表情について。あれは記憶にこびりつくね。「終」幕の刹那の表情、それをさかのぼる数秒前の表情からぐわっと。ひー、この女、なにを考えてるんだ? 芝居じゃなくて、あたかも球磨子という人間がそこにいて、彼女の気持ちを必死で推し量るアタシがいて。なんか終わった瞬間に身震いしました。