『キッチン・ストーリー』

  • ノルウェースウェーデン合作映画
  • あらすじ:独身男性の台所での行動を調べるためスウェーデンの家庭研究所がノルウェーの田舎の独居老人のもとへ調査員を送り込む。会話も交流も禁止というルールのもと、台所の片隅に奇妙な監視台を置いて観察を続けるうちに、些細なことから老人と調査員の間に奇妙な友情がめばえ…。

じじいとおっさんの友情映画を見たー!(←『うるるん滞在記』のナレーション風に)。
冒頭、調査団らのトレーラーハウスが国境を越える道中、車がゆるゆると行列してすすむところから始まるのだが、そのトレーラーハウスからしてもういかん、断然かわゆいっ。車が動いてるだけなのにー!
田舎のじいさんの家は隣家と適度な距離感を保って雪中にぽつんと佇んでいる。まるで絵本の“小さなおうち”という感じでたまらんっ。室内は最小限の生活必需品があるだけの質素さだが、小物も配置の仕方も「さすが北欧!」と無条件にときめく。独居じじいのくせに、コーヒーマグもかわいい模様入りで、やばい。
たぶんこのあたりからもはやアタシは目をキラキラさせて部屋中すみずみまで観察しまくっていたと思う。
そんなかわいいものに囲まれた、じじいと調査員のおっさんはだいぶ陰気くさい。じいさんは陰険に拒否るし、調査員はおどおどしている。それが、少しずつ彼らの個性が明らかになって行く過程でどんどんかわいらしく見えてきて、互いを容認して、終いにはどっかーん、
「おっさんたち、なんてかわゆいんだー!」
と叫んでしまいたくなるのだよ。
ホントのこと言うとじいさんの家がでてくるまで少しもたついて前半はたるいとこもあったんだけどねー、おっさんどもの友情がめばえてから実に微笑ましくて、このまま終わらないでーずっと見ていたいよー、なの。
普通にしていたら別にかわいいという面じゃない、じじいのご面相がよかったな。酒やけでほんのり赤みを帯びた鼻頭とか頬とか、皺や凹凸が作り出す陰影とかがふとした瞬間にゴッホの絵画かと。まあ、じじいじじいと気安くじじい呼ばわりしてるが、本国ではたぶん大俳優なんだろうな。
彼らの質素で物欲のなさそうな暮らしぶりは童話の世界のようで非現実感をかもしだしながらも(ああ、そうかテレビとか電気製品とかがほとんどないんだ…余計なものがない)、ときおり顔をだす生活が現実との乖離間を埋めて、時間軸が少し動く感じがする。たとえば電話の音とかで。
受話器をとらずにベルの回数だけを聞いてふんふんとうなづく、じじい。
「なぜ電話をとらないんだ?」
「電話代がいくらだと思う! ベルの音で用件はわかる」
じじいはお茶の用意をする。電話のベルは隣人からお茶へ行くという合図なのだ。ほかにもスウェーデンノルウェーのカルチャーギャップなんかがところどころに織り込まれていて、「へー」。
前半の二人は研究所の定めたルールどおりにまったく会話をかわさず目もあわさず、それでいてどうしたってお互いの存在を痛いほどに意識してしまう、その奇妙な空気感が興味深い。後半、歩み寄っていく二人のぎこちなさがほほえましく、嬉しい。
全編90分の上映時間で、たいした事件はおこりません。
嫉妬した隣人(これもおっさん)の介入だけは「おいおい、やべーだろ!」な危険な兆候がなきにしもあらずでふいうちされたけれど、あっさり収束する。そのエピソードがじいさんの心を表していてじんとくるし、誕生日のケーキとかも、ああっ、もうそこんとこは見て欲しいんでネタばらしはやめとこう。
そしてラストは…すべてはじいさんの言っていたことに真実があるのだなぁ…感慨ぶかいです。
こーいう映画、好き。小津っぽいかも。っていうほど小津しらんくせになにを言うかと。人物とセリフが少なく淡々・素朴・ほのぼので、ちょっと寂寥感が漂えば、小津といってしまう浅はかさです。