NHK-SP『プーチンのロシア』第3回

やっぱNHK-SPはすげー。民放でこれだけ骨太で良質なドキュメンタリーを作れる局があるかって思い起こすと、かつてはTBSの深夜枠あたりで見応えのあるものをやっていたような…ああ、あれはCNNドキュメントか、ふっ。
この『プーチンのロシア』は4回シリーズね、不覚にも前の2回分を見逃してしまいました。日本という比較的言論が自由な国でこういう世界情勢をかっちりと公正に取材した情報を得られる機会をみすみす逃しちゃいかんよね。NHKは頻繁に再放送してくれるから機会を逃さず押さえておかねば。
さて、第3回はグルジア紛争の現場から。グルジアの国民生活がどのような影響を受けているか、2組の家族に取材したものを中心に語られていた。

  • モスクワの父と故郷の妻娘

かつては1つの大国であった名残で今でもロシア国内へ出稼ぎに出ている多くのグルジア国民がいる。モスクワに移住していたある一家は、妻と娘を安全のために帰国させ、残留した父親からの仕送りで生計を立てている。柔道師範の父親は、日々強くなるグルジア出稼ぎへの反発のせいで道場を借りられず、やむなくマイナス10度の路上で生徒を教え続けていた。当然生徒は減っていく。さらに道場を探している最中に車の衝突事故を起こし100万円の損害賠償を払わなければならなくなる。帰国のめども立たず、事態は悪化する一方だ。
「もう一度家族に会えるのかどうかわからない」
クリスマスの日、携帯でグルジアの家族へ電話をする。現状を伝えることはできず妻へは順調を装い、娘に、
「おみやげは何がいい? なんでも買って帰ってやるぞ」
グルジア国境にロシア側から壁が作られようとしている、そんな情勢下であっても携帯電話の電波は両国の国境を簡単に越えられるということが、アタシにはほんの少し不思議で、ほんの少し感動してしまうことでした。感じるべき視点がずれているかもしれないけど。

  • 国境のリンゴ農家

もう一つの一家はオセチアとの境の村に暮らしていたリンゴ農家。両親と二人の娘はロシア軍侵攻の直前に遠くの避難所へとなんとか逃れることができた。
「僕は侵攻で6人もの友人を失った。もう誰も失いたくない」
と父親。りんごを育てロシアに売ることで生計を安定させやっと手に入れた家も、オセチア兵によって焼き払われた。
一家でいまだ危険が残る村を訪れ、家の廃墟へ足を踏み入れる妻と娘たち。壁と骨格のみを残し無残に破壊された生活の痕跡。沈痛な表情。しかしカメラを向けられると微笑んでみせるのが痛々しい。
避難所の閉鎖が決定し行き場を失った一家。父親が自力で自宅を補修し、家族は村へ戻る。だが村の生活はいまだ安全を保障されたわけではない。
「来年の春に再び侵攻してくるという噂がある。でも私たちには他に行くところがない」
そして彼らはまたリンゴを植える。

後半で挿入されるロシアのTV番組「プーチンとの対話」。どこが対話なのかわからない一方的な演説でプーチンは、
「紛争を引き起こしたグルジアは責任を取る必要がある。最高責任者が責任をとるべきだ」
と、暗に首を差し出せとも取れることを。満場の拍手。震撼。ラスプーチンと名前が似ているプーチン、それだけでも不吉なのに。
彼のことをあからさまに批判するようなドキュメンタリーを作ったNHKのスタッフが狙われやしないか、心配になってなってきたのは自分だけではあるまい。
日本は平和だ、平和ボケだといわれるけれど、こうして世界情勢を目の当たりにしているとやっぱりその通りだと思う。日本に生まれられてよかった…。
今日はシリーズ最終回『プーチンの子どもたち〜復活する"軍事大国"』