NHKスペシャルドラマ『白洲次郎』第一回(2)


続きを書くねと書いた手前、書かなきゃーと思いつつも、時間がたったらすっかり熱が冷えてしまった。あまり長続きする熱じゃなかったってことかしら。でも約束は果たすぞ。

  • あらすじ:親の金を後ろ盾にすっかり増長した次郎の少年期とイギリス留学時代。親の没落により凱旋帰国した後に正子と結婚、政治に夢中になったものの挫折して田舎へ遁世するまで。

白洲次郎が戦前にどんな政治的役割をしたのか?
劇中で描かれたのは、吉田茂牧野伸顕の親書の橋渡しをしたこと、時の総理であった近衛文麿に忠言をしたことぐらい。頭脳明晰さの片鱗は伺えず青臭いばかりで、時代の動向を読む洞察力がありながら、実践的な政治活動には落差があったというふうにあえて描かれていたように思う。
特にそこを駄目押ししたのが、国内でのロビー活動に見切りをつけて単身赴いたイギリスでのエピソード。学友ロビンの協力を得て晩餐会を開き、日英開戦を避けるように働きかけて欲しいとスピーチをした次郎は、
「君は何の立場をもってそれを言うのか?」
と英国紳士に問われ、
「なんの立場もありません。私の良心が言わせているのです」
平然と的を外した応えをし、失笑を買ってしまう。本国では総理大臣にも真っ向から具申して(とりあってもらえたかどうかは別としても)ブイブイ言わせていた青年が、『立場』というものの重要さを自覚したのは、あるいはこの時が初めてであったのかも。父親のコネに無自覚であったこと、己を過信しすぎていたことなども。
という硬派な考察はおいといて、それよりも見逃せないのは学友ロビンと次郎の関係だよねっ!
晩餐会後に慰めてくれていたロビンに、
「君と僕とがっ、敵味方になってしまうんだぞっ!」
と感情を爆発させる次郎。って、ええっ、気落ちポイントはそこっ!? と、きょとんとされた方も多かったはず。アタシには激熱い告白にしか聞こえませんでした。このとき空耳のように蘇ったのは吉田茂の、
ケンブリッジにはホモセクシャルがたくさんいるそうだな。君もさぞかし狙われたんじゃないか?」
そうか、あれは伏線だったのか…。脚本家、狙ってるだろ。狙い通りに喜んでしまいましたよ、ふっ。という軟派な考察もありーの。
最後に、薄れゆく記憶の中から、正子で好きなシーンを2つあげておきましょう。
義父の霊前で家族一同が食事をしている最中にハエを手で払っていた無頓着な嫁・正子、田舎家で襖貼りをしている息子に「丁寧な仕事してる」と男前に褒める母・正子。
『勝気で何事も面白がる頭脳明晰な伯爵令嬢らしさ』を狙ったシーンが多い中で、なんということもない生活の端っこで正子という人格を匂わせた中谷美紀は凄いかもと感心しました。っていうのはただの買いかぶりで、実は役の憑依が解けた中谷美紀自身の姿がのぞいただけだったのかもしれないけど(中谷のみぞ知る)。
さて、カントリージェントルマンとなった白洲次郎が戦後どのように頭角を現して行くのか。第二回が待ち遠しいですね。