WOWOWドラマ『超人ウタダ』

  • 2009年1月30日スタートのWOWOWの連続ドラマ、原作:山本康人、出演:塚地武雅ドランクドラゴン)、片桐仁ラーメンズ)、大河内浩、西村雅彦、鈴木砂羽蛭子能収
  • あらすじ:腐敗した警察署で憤りを殺して日々をやり過ごす刑事・ウタダ32歳(塚地)の前に、かつて52人殺しの咎で処刑された殺人鬼・神崎の亡霊(神崎)が現れ「お前は35歳で死ぬ」と告げる。「俺たち超人は本能のままやりたいことをやり、殺したいやつを殺す資格がある、殺さずにはいられないのだ」とも。動揺するウタダは、神崎に唆されて徐々に事なかれ主義から過激な男へと変貌していく…。

出演者を見て「まあWOWOWだもんね」と思ってしまった。良く言えばコアな所をついている、悪く言うと華がないんだ。映像を見ても低予算が透けている。それでも意外とよくできてるんだよなぁ、コレ。WOWOW視聴者限定ゆえに万人向きではないものをつくれるところがよいのかな、俳優が視聴率狙いのくびきから開放されて、自由度を楽しんでいるように見える。気負ってないぶん芝居をやりすぎていないのだ。
まず鈴木砂羽、"ちゃきちゃきで小煩い姉御肌"という美和子in『相棒』のイメージを、いい意味で裏切って、計算高い官僚体質の新任警察署長を違和感なく演じている。冷たい表情がはまって、ふうん、なんか妙な色気があるのう。
署長に追従し、面倒を避けるために殺人事件を自殺にしろと部下に迫る部長刑事に西村雅彦。やりすぎてなさが一番いい方向にでているのが彼。追従するにしてもいつものような太鼓もち演技とは違い、倣岸さと怠惰とで表現していて、余計な尾ひれ(例えば、職場ではこんなだけど家ではきっといいお父さんなんだろうなと思わせたりとか)がない。
その部下で罪悪感を感じぬ事なかれ主義の部下・蛭子能収、お約束の挙動不審さがなくていい。このまま最後まで小芝居なしでやり通してね。
ウタダの部下で新人刑事役の丸山敦史は、今回初めて知った役者さんだ。塚地との相性が不思議とよくて、陰鬱なドラマの中に唯一ちょっとコミカルなテイストを撒いて和ませる、そのさじ加減がいい。芝居が確かなのでもう少し顔立ちが地味ならテレビ朝日の刑事物脇役に重宝されそう。売れないロックスターのような容姿が惜しい。
真打は主役ウタダを演じる塚地武雅、シリアスで抑えた芝居も巧かったんだねぇ。『裸の大将』、『間宮兄弟』、『キサラギ』などで彼の俳優としての実績に触れてはいたが、いずれもキャラクターに遊びがあって、本業(コメディアン)の尻尾がのぞいてた。現在日本テレビで放送中の『キイナ』においても、お茶目で穏やかな鑑識さんという役どころ。ところがこのウタダは、早くも加齢臭が漂い始め、警察内部の腐敗に忸怩たるものを抱えながらも、諦観で屈折した刑事だ。初回ではレンタルショップの女性店員を暗い目でみつめ、後をつけてアパートを突き止めるストーカー紙一重の男で、愛すべきキャラクター性はぜんぜんない。殺人鬼・神崎の亡霊に己の闇を突付かれて、保身と正義の狭間でぐらぐら揺れる弱き凡夫がこれからどう変わっていくのか、殺人を犯してしまうのか、キャラ萌えがないので純粋にストーリーにハマらせてくれる。
などと熱く語って「そんなにすごーく面白いか?」と問われると、えー、そ、そんなには…(笑)。ただ、ちょっと見たってことを後から小さく自慢できるドラマかも、と思うだけ。だって芝居に尾ひれがないということは、役柄に厚みがないということでもあるからね。ドラマとしての深さは今のところナイ。だからすごーくオススメはしません。
「いいのか、ウタダぁ〜、どうするんだ、ウタダぁ〜」
神崎(片桐仁)のねちっこい声が後遺症のように耳元に残るのは困りもの(書き忘れたが彼も巧い)。