『警官の血』(3)

  • 2代目安城民雄(吉岡秀隆)、妻(貫地谷しほり):安保闘争の昭和30年代、父に倣い駐在を目指した優等生は、公安のスパイとして北大に潜入する。大菩薩峠事件*1に際し手柄をあげるが、罪悪感から強迫神経症を発症、妻帯し駐在勤務となった後も家庭内暴力を繰り返す。なんとか立ち直ったのもつかの間、父・清二の死への関与を詰問した早瀬から逆に、潜入捜査時代に己の未熟さが惹起した罪を弾劾され再び精神崩壊。幼女人質立篭事件に無武装単独特攻し、限りなく自殺に近い殉職をする。

2部は1部にもまして暗かった。安城3世代の中で彼が一番悲惨だったよね。
跨線橋の上で父・清二の警笛を吹き鳴らした息子は、「父さんのような立派な駐在になりたい!」とまっすぐにキラキラ目を輝かして生きてきたはず。警察学校を卒業し、さあこれからというときに組織の都合で意に沿わぬ非情な職務を任ぜられ、精神の呵責で心を病んでしまう羽目になる。前半のこれだけでも、もういっぱいいっぱい。そもそも彼のような精神の弱弱しい人間にスパイなんて向いてないだろうという判断を組織はしないのかといえば、今なら当然するだろうことを、していなかった時代があったってことなんだろう。人事の裏にキッペイが暗躍していたのかそこははっきりとは描かれていないが、おそらくは…。
さて安城民雄は哀れだが、その哀れさは己の弱さにも一因がある。彼がせめてもう少し強ければ局面は大きく変わっていたのではなかろうか。ま、そこでパワーアップした3代目が生きてくるわけでしょうが。
民雄のとばっちりで一番悲惨だったのは、
「もう少し一緒にいてくれる?」
「少し…だけですか?」
「いや、ずっと一緒に…」
「いいんですか。私、ずーっとついていきますよ!(うるるっ)」
などと感動的なプロポーズの直後にいきなり、夫のハンパないDVの犠牲者になってしまった妻・貫地谷だよ。ちゃぶ台の上に飛び乗って雄叫びをあげ、タンスを壊さんばかりに荒れ狂う民雄はまるで貧弱な超人ハルクって、なんじゃそりゃー!? あそこの場面転換はぶっとびすぎです(笑)。
とはいえ、ぶっとぶ吉岡君の芝居が素晴らしく説得力があるんで、無問題。北大キャンパスを歩いていれば鬱屈したノンポリ学生(実は警察のスパイ)に見え、強迫神経症を病んだ後は「マジで病んだことあるん?」と疑うほどに、まぶた一枚から、毛穴、皮膚の細胞に至るまで病みきっている。銃でぶっ飛ばされても犯人に喰らいつく殉職シーンは壮絶に尽きる。精神病も、DVも、壮絶死も、コレほどまでに巧い吉岡秀隆って人はいったいどのような…ま、追求はしないとこ〜。
さてさて、かくのごとくに祖父・父2代連続で勤務中に不慮の死を迎えたその孫・和也(伊藤英明)も警官を目指すことになるのだが、そこんとこがちと解せぬ。普通のサラリーマンのがいいや〜とか思わんのか。思わんのね、警官の血だから。そいえばこの息子、DVを改悛して涙を流す父・民雄の背に「オレは幸せになってもいいのか〜?」と不気味な一言を浴びせてんだよね。「幸せになってもいいのか?」はたぶん民雄の口癖で、おそらくDVの後に父親がそう言って泣いてた姿を毎度みてたんだろう。でもなぜあえてそこでそれを言うのだ? すげー不気味であった。後日父親と微笑み交わして和解したふうなシーンが挿入されてたからよいが、あのときは「この子も壊れちゃったの?」と心配になりました。ま、いろいろと父の弱さに学んでたんだろね。それが伏線となって、3部の和也の逆襲編へと続くのだー(って違う?)。

*1:1969年11月5日、福ちゃん荘における赤軍派武装学生一斉検挙