『ハワーズ・エンド』

DVDの裏側には「価値観の違う人々が出会い、相克や別離を繰り返してやがて和解する」などいろいろと高尚な解説が書かれていたけれども、ええ、ウソでしょ、なんじゃこりゃ? 金持ちの気まぐれに翻弄される高潔じゃないけど純粋な貧乏夫婦の悲劇じゃないの。あ、ごめんネタバレします。だんなっちを撲殺され、一人残された貧乏妻はあのあとどうなったんでしょうかね。「アナタに捨てられたらもうアタシは行くところがないの〜」なんて言っていたりしたから、やっぱ餓死かな…でもその原因をつくった金持ちはすべてこともなし(どころか肥え太る)と、ああ、むなしいぜ。
「美しいハワーズ・エンド邸」とやらにも、ホプキンスを筆頭とする金持ちファミリーがこぞって執着するほどの魅力があるようでもないのが難。そりゃさ、咲き乱れる花々はキレイだし、先祖代々住み継いできた愛着と伝統のある家屋なのだろうが、いかんせんぼろい。そりゃぼろくても魅力満載ってのもありますが、そういう風にもうつらない。でもま、イギリス人の価値観とアタシの価値観は違うってことなんでしょう、きっと。
名作『日の名残り』では惹かれあいながらも別離してしまった二人(アンソニ・ホプキンスとエマ・トンプソン)が、本編ではあっさり恋を成就させ、やたら人前でもべたべたしまくる。ま、それはよかったんだけども、その恋の過程があまりにも唐突だ。
唐突といえば場面が変わっていないのにやたらカットアウトが挿入されるのはなぜなのだろう? あれだけの名優をそろえて長まわしができなかったからなんて言い訳は通用しません。エピソードのつなぎが巧くないのに苛立ちを覚えていたので、よけいにあまりにも無意味なぶつ切り感が気になった。
名優の競演、アカデミー賞3部門受賞、名作の映画化、など評判のわりには、頭の中に「なんでやねん?」ばかりが蓄積されて消化不良。格調高くみせているけども実は、「化け物屋敷ハワーズ・エンド邸が己の主を選ぶため人間たちの運命を操った英国怪奇譚」だったりして、と角度を変えてみてみようか。ふんっ、それにはおどろおどろしさが足りないね。