綾辻行人著『暗黒館の殺人』

異能の建築家中村青児の手掛けた異形の館でまたしても惨劇が。黒い海鼠壁に覆われ、内部も艶消しの黒一色に染め上げられた暗黒の館。学生・中也が招かれたダリアの宴で供された[肉]とは? そして不可解な連続殺人が…新本格ミステリ館シリーズ最新作。 
綾辻氏はもう館シリーズは書く気はないんかなあ、最近は評論や企画ものばかりであまり作品も執筆してないし、才能と情熱が枯渇しちゃったんかのう、などと無礼なことを思っていて大変失礼致しました。まさか上下あわせて1300ページ近い超大作でくるとは、いやはや参りました。
雉も鳴かずば討たれまい、これは読まずばなるまいて。しかし上巻はいつまでたっても事件は起こらんどころか、館までもなかなかたどり着かず。「ちっ、ひきのばしかい!」とか思ったりもし。いや最後まで読めばその必然性もわからなくもないですが、まあ本音を言うとちと削ってもよいのではと。新書で上下各1500円は高すぎです。
400ページすぎたあたりからはぐぐぐっと引き込まれ、あとは寝食忘れて読みふけっちまいましたが。錯綜する視点に幻惑されてあれよあれよと翻弄されていく心地よさ。これですな。じわじわと脳内に蓄積してゆく微妙な歯車のずれの気持ち悪さが快感なのだよ。それがラストでかちりかちりと噛み合う、くー、たまらんね。美酒を求めて含んだ赤ワインが微妙に鉄錆めいた味わいをはらんでいたときのような異物感も1本飲み干せばそれなりに後をひくと。アタシはこの本好きだけど、推理ものというよりも『殺人鬼』テイストが強いので『館』ファンには賛否両論かも。
後書きによれば館シリーズはこの後も『奇面館の殺人』などが控えているようで、楽しみな限りです。できれば今度は8年も待たさないでほしいなり。[ダリアの祝福]を綾辻さんに、なんちって。