耳の中まで力任せ


アタシはわりと何でも力任せにしてしまう。掃除機をかけているとき本体がついてこなくなったので、調べるよりも先にフンッと力任せに引いてコンクリートの壁をそいでしまったことがある。同じようにして椅子の足をもいだこともあるし、床の段差のあるとこが傷だらけなのもそのせいだ。引き戸を押して壊してしまったことだってあったなぁ。元来非力なのだが、そういう奴に限って力のなさを過信してしまうものなのかもしれん。
壊すのが壁のような無機物ならまだマシだ。耳掃除するときにもついつい力任せにやってしまい竹製のわりと鋭利な先端で耳の側面をごしごしとこするもので、しょっちゅう血がついてくる。以前、といってももう10年以上も前のこと、アレルギー性鼻炎で訪れた耳鼻科で「外耳炎もありますね」と診断されて塗り薬をもらって帰ったことがあった。綿棒の先に薬を塗布して塗ること数回。耳の中にぬるぬるしたゲルが入っている状態が気色悪くて、完治する前にやめてしまった。だからアタシの耳掃除には10年来スプラッタがつきものなのであった。
しかしである。ずいぶん長い間、血が出るけども気にしねーぜの精神でのりきってきたが、ついにアカンことになったようである。傷口からばい菌がはいって膿んだとみえて、一昨日あたりから右耳の下から上あごのあたりまで腫れて熱を持ちはじめた。最初はそのうち治ると放っておいたが、断続的に襲ってくる鈍い痛みのせいで昨晩は眠つかれないほどになり、夜中に薬箱を探っていつのだかわからない鎮痛剤らしきもの(箱に入ってないが錠剤の表面にBと書いてあったからたぶんバファリンだろう、ふん、薬は気からだ)を飲んでなんとか凌いだ。痛いよ〜痛いよ〜、神様助けてくれ…とほほほ。心の中で、ときどきは声に出しつつ悶えているうちにいつの間にか寝ていたようだから、とりあえず薬効はあったのだろう。いっときは救急車を呼ぶことを本気で検討していた。自分で歩けるのに呼んでもよいものなのだろうか? 自力で行くとしても夜間診療をやっているところなんてあったっけ…うーん。居住区一体型の赤ひげ医院のドアをどんどん叩いて、「医師(せんせい)、助けてください! お願いします」みたいな、小説やドラマのシーンを脳裏に浮かべてみたりなぞもし。うつらうつら。
さて起きてみると、朝のうちは痛みも熱もそれほど気にならなくなっていた。これぐらいなら病院に行くのは土曜日でもいいか。腫れたぶん耳の穴が細くなっているのか、自分の声が中でくぐもるが、右耳が聞こえないというほどの不自由さはない。鈍く痛いには痛いが、さてどうしよう。
昼が近づいてくるにつれ、どんどん痛みがはっきりとしはじめてきた。ご飯を噛む振動もつらい。職場の救急箱からナロンをもらい服用。ああ、もうダメ。「本当は怖い家庭の医学」の再現ドラマのようだ。たかが外耳炎だと思っていたら…その兆候は10年前に遡る、みたいな感じ。ううう。もう限界。これ以上我慢してても悪化するだけかも。万一膿があふれて、内耳のほうまで侵したらやばそうだもん。今日は30分ほど早退して帰りに耳鼻科に寄ることにしました。