『奇跡の生還SP』


2004年9月27日19:00〜テレビ朝日系列 司会:草野仁
偶然見た番組でやっていた佐賀バスジャック事件の再現ドラマ。これが凄かった。
事件発生は2000年5月3日。刃渡り40cmの包丁を持った17歳の少年が佐賀発福岡天神行きの西鉄高速バス(運転手1人、乗客22人)をバスジャック、途中女性客3人に切り付け重症を負わせ(1名死亡)、警察突入によって解決するまで15時間半を要した。犯人が2ちゃんねる上に「ネオ麦茶」なる名前で予告らしき書き込みを行っていたこと、東海道を東京へ向けて走る光景がテレビで生中継されたことでも記憶に新しい。
スタジオには当時、顔面など数箇所を切りつけられて奇跡の生還を果たしたYさんを迎え、再現VTRの合間に社内での心境を語ってもらっていた。
まず再現VTRが物凄いリアルで迫力で体が硬直するほどだった。犯人の青年に扮した俳優は、逆三角形型であばたのある貧相な顔つきで、いかにも犯罪に走りそうな鬱屈したものを秘めていそうに見える。ぶつぶつとしたつぶやき、いらつき、興奮、淡々とした口調で「あなたを殺します」などの恐ろしいセリフをはく。夢にみそうなほどリアルだと思っていたら、その夜実際に自分が殺人者(何故か10歳)になった夢をみてしまった。VTRの中の乗客たちも、いかにも役者然としておらず本物の乗客にしかみえない。再現は徹底的で、彼がどうしてそのバスを選んだのか、人質をコントロールするためにどのような手段をとったのか、警察との交渉方法は、などまでもいちいち克明に描く。身ながらふとした戦慄を覚えた。これは「自分がもしも人質にされたときにどうしたら生還できるか」のヒントにも確かになるだろう。だが同時に「自分がもしもバスジャックするなら、こうすればいいんだな」というケーススタディにもなるのではないか。17歳の少年だが決して行き当たりばったりの行動ではなかったことがわかる。きちんとしたノウハウが幾つも盛り込まれていた。模倣犯がでないとよいが。
Yさんの話にも衝撃を受けた。彼女は切りつけられたときに犯人の無表情な顔に自分の子供の顔がオーバーラップするのに愕然したと告白する。そして瀕死の重傷を負いながらも傷口を心臓から高くキープすることでなんとか生還することができた。途中で「おばさん、まだ生きてますか・・・しぶといですねぇ」などという怜悧な言葉をかけられながらも彼女の生への執念を支えたのは「この少年を殺人犯にしてはいけない」という思いがあったという。結局、人質の一人が亡くなったことで彼は殺人者になったが、己を傷つけられてさえなお我が子に照らし合わせての思いやりをしめせるとは。こうした強引とも思える優しさが母性というものなのかもしれない。すごい。彼女は犯人の少年との対話を望んでいるが、いまだかなえられてはいないそうである。