風が強いので


いやはや台風18号の暴風はすごかった。日本をほぼ縦断して北海道にまで達し北大のポプラ並木をなぎ倒してようやく低気圧に変わるまでに、30人以上の犠牲者と多大な被害をもたらした大型台風。よく言われるところの「爪あとを残す」という表現まさしく、日本列島に引っかきまくったような痕を残していったよね。倒壊した世界遺産厳島神社、ドックから外洋へと難破し座礁した建造中の大型船、横倒しになった大型トラックが道路上に点々と、落下した屋根や倒れた電柱などなど。悲惨な光景に混じり唯一笑いを誘ったのは、強風にめげずほとんどたたんだ傘を顔に被せて歩いていた人たち。あれは唐傘おばけかKKKみたいで、ちょっと滑稽。いや、挿している人たちはほとんど悲壮な覚悟で外を歩いていたんだろうけど。おちょこになった傘とともに、台風ニュースになくてはならない風物のひとつってことで。お、まさに「風」物じゃん。
さてちょいとさかのぼって2004年8月31日火曜日、その日関東地方では日本海側を北上する台風17号の影響で関東地方にも前夜から強風が吹き荒れ、朝になっても依然として強風が吹いていた。アタシが通勤に使っている路線は雨風天変地異すべてに弱く、海沿いの高架を走っているせいで風にはめっぽう弱い。朝起きて、窓外からのゴオゴオいうGOサインを受けてアタシはあっさり午前休を決め、目覚ましを始業開始時間にセット*1し寝直すことに決めた。念頭には数年前に台風を直撃したときに無理して通勤したときの記憶があった。
数年前のその日も台風で当然のごとくアタシの路線は始発電車から運行を止めていた。それでもまあ風さえおさまれば動き出すだろうと、いつもより少し早めに家をでた。駅構内の様子が見えるドトールに陣取ったのが午前8時前。カラスの群れのようなオレタチ通勤客は鳩よりもおとなしく待ち続けた。
3時間が無為に過ぎた。11時になってようやく、よーやくだ、台風一過の南国的快晴がもたらされた。待ちくたびれたぜ。しかしまだだ。電車のほうはいっこうに動く気配をみせなかった。やむおえず職場に再度電話を入れた*2。「あ、晴れたんですけども、まだ電車は動かないみたいで」「え、そうなの。たいへんだねぇ」この時点で職場に電話を入れてもまだ同情ぐらいはしてもらえた。
正午になった。お天道様はぴっかぴか、もはや「さっきまでの暴風雨はいったいなんだったんだ?」状態である。都内の交通機関ではとうに台風の影響はなくなっていた。しかし、アタシの電車はまだまだ。うがー。再び電話をしておく。「すみません、えーっと、まだ動かなくって」「えええっ、まだ? え、とっくに晴れてるのに!?」「はぁ、まだなんですよぅ」「……」「点検してるみたいで、すみません(へこへこ)」。って、アタシが悪いんじゃないんだよぅ!
座り続けで痛くなったケツをさすりながらサンドウィッチを買う。食らう。さらに待つこと1時間。徐行運転ながらも電車が動き始めたのは、午後1時過ぎ。混むうえに徐行中の電車は普段の倍以上の時間がかかり、うんざりする徒労感を抱えて職場に辿りついたときには3時近かった。「お、おはようございます」こそこそ入るところを見咎められ、「あ、来た!」「来たの?」「もう来ないかと思ったのに」「来なくてもよかったのに」の仕打ち。しくしく。「来ちゃいました、えへ」。しくしく。
かれこれこんな顛末が念頭にあったので、8月31日のアタシはすぐに半休を決めたのだ。連絡を入れるために始業開始の9時にいったん起きて電話を入れた。「すみません。あの、本日半休させていただいていいでしょうか?」「はい、わかりました伝えておきます。あ、理由はなんでしょう?」「風が強いので…」「ぶはははは、わかりました」(がちゃん)。え!? 「風が強いので」の後に「電車が止まりまして」を続けようとしたのだが、まあいいか。いや、よくないか? はたして午後に出勤すると、電話を受けた総務のYさん「HALさん、風が強くて歩けないとか、なんか育ちが違う人なのかと思っちゃいました」と軽やかのたもうておられたので、なにやら誤解が生まれていたようです。しかしアタシって別に風が吹いたら吹き飛んじゃいそうなほどか細くもないんだが、うーむ。
とはいえ昨日の暴風による被害状況をみていると、まんざら「風が強いので」という理由で外出をとりやめるというのもなくはないんだなと思いなおす。風をなめるな!ってことですな。

*1:朝一で職場に電話連絡を入れるためである。ってことわるまでもないか。

*2:この頃は携帯電話を持っていたので、ドトールに居ながらにしてこまめに電話連絡をとることができたのだ。え、今? 持ってません。