鷺沢恵著『さいはての二人』

所属していた劇団がつぶれてそのまま水商売が本業のようになってしまった26歳の美亜と、店の常連のパクという中年男性とのプラトニックで熱烈で物悲しい恋の話(表題作)、ほか2編。
「ウエルカム・ホーム!」でも本書でも、主人公たちはみな普通の家庭というものにめぐまれていない。著者は家庭というものに激しい絶望と渇望を抱いているのではないだろうか、などと深読みしてしまうのはやはり著者の訃報を知っているからか。面白かったが、「面白い」という軽薄な言葉がちとそぐわない思わせる、ひそやかな孤独のにおいがするのだ。

人間は馬鹿な上に、毎日生きていかなければならない。
もし神様みたいな存在がどこかにいるのだとしたら、まったくひどい罰をくだしたものだ。おまえたちは馬鹿だ、ゆえに生きていかねばならん、と。ずるずるずるずる、ありとあらゆる重くて醜いもろもろのものを引きずりながら、けれども生きていかねばならん、と。