桐野夏生著『残虐記』

35歳の小説家小海鳴海のもとへ届いた、ひらがな交じりのつたない手紙。差出人は、かつて10歳の彼女を1年間拉致監禁した男だった。蘇った過去から逃げるように小海は姿を消す。誰にも語れなかった事件の真実を回想した、手記を残して……。
そういえば、と思い出した。9年間、拉致監禁されていた女の子がいたっけ、あの子、今はどうしてるんだろう。事件発覚は2000年1月、あれから3年。3年は、彼女の失った9年2ヶ月のまだ3分の1。どうしていますか。ぐっすり眠れてるのか、あれからの3年をどこでどんなふうに……なんて考える。けれど本当はアタシなんかが思い出さないほうがよかったのかもしれない。自分がその子ならきっとそっとしておいてほしいだろうから。自分の事件が世間で風化され忘れ去られてゆくことへ、一抹の寂しさを感じたりすることがあるのかもしれないけれど。本当の気持ちなんて当人にしかわからない。想像もつかないというのが事実。