『トロイ』

hal8182004-05-27

スパルタとの和平交渉に特使として赴いたトロイの王子パリスは、恋に目が眩みスパルタ王妃ヘレンを連れ帰る。和平は決裂、スパルタ王の実兄アガメムノン率いるギリシャ軍がトロイへと侵攻を開始した。堅牢な城壁に守られた難攻不落の城砦都市トロイは、ついにオディッセイスの奸計トロイの木馬作戦に嵌り一夜にして陥落し滅亡する。ホメロス叙事詩イリアス」「オデュッセイア」を下敷きにした神話時代の大歴史スペクタクル。
(2004年米、監督:ウォルフガング・ペーターゼン、脚本:デビッド・ベニオフ、出演:ブラッド・ピットエリック・バナオーランド・ブルームダイアン・クルーガーピーター・オトゥール

バカ道一直線の王子が国を滅ぼす話し。王子パリス(オーランド・ブルーム)がどんなにバカかという描写が全編つづき、それに周囲が振り回される。その愚行っぷりは、国の特使として赴いた先で、スパルタ王(ブレンダン・グリーソン)の開催する歓迎の宴の最中にその王妃ヘレン(ダイアン・クルーガー)の寝所へ夜這いをかける非常識さからはじまる。美貌の王妃に誘われて(もろ肌脱いで誘うシーンあり)ふらふらしちゃう女好きの若者というのならば、1〜2夜だけの過ちは仕方ないかもしれんが、不倫相手を夫の目の先からお持ち帰りするとはね。そんなことをしたら和平交渉がそして国がどうなるのかということに、兄から指摘されるまで思いつかない。想像力ゼロ、帝王学もゼロ。彼が王位継承者ではなかったのは唯一の救いだが、それでよけいに甘やかされてこんなふうになっちゃったんだろう。息子の所業を知った父王プリアモスピーター・オトゥール)の態度も、「しょうがないなあ。こいつはアホなんだから」と目の中に入れても、許しちまう。ちっ、怒れよ、怒ったれよ。
バカもバカなりにいちおう責任は感じたらしく、スパルタ王とタイマン張って自ら決着をつけると勇んではみたものの、結局へタレでしかないことをまたもや証明して自らの尻拭いに兄までをも巻き込んでしまう。馬鹿のがんばり、愚行をだめおし。
愚弟とはまったく逆のベクトルを持つトロイの守り神とも称される賢兄ヘクトルは、賢く正義感溢れる勇猛果敢な戦士であり、よき家庭人。しかも彼は作中の唯一の良心ともいえる。悲しいかなこういう時代は良い人ほど短命なのよね。筋肉馬鹿アキレスとの一騎打ちで……ううっ。ヘクトルの末路もトロイが滅ぶのも、民が惨殺されてこの先長いこと隷従を余儀なくされてしまうのも、アレもコレもソレもドレもすべて元を辿ればパリスのせい。奴の愚行無くしても、征服欲にとりつかれたギリシャ王アガメムノンブライアン・コックス)なれば遅かれ早かれトロイを制服したに違いなく、トロイ滅亡の史実があってそれをもとにこういう話が捏造されたんだろうからあまり責めてもかわいそうか。んにゃ、やっぱ、アタシのヘクトルさまの最期をのうのうと高みの見物しとる諸悪の根源に甘い顔がでけるかいっ!
パリスにしてみれば言い分はあろう。叙事詩での彼は生まれおちたときに「トロイを滅ぼす子供」と予言され、そのために山だかどこだかに捨てられたりしたという過去を背負っている(らしい)。「国を滅ぼすのが宿命ならば、もはやなにをしたって、いや、なにをしなくたってそうなっちゃうんだ。だったらいいじゃん絶世の美女を寝取るぐらいの役得は」と。しかし映画は神話的要素を一切とっぱらってヒューマン史劇にしたてあげているので、そういういいわけはきかない。しこうして、ほぼ100%の観客から「バカたれ」よばわりされても仕方ないのである。
アキレスの扱い。実はトロイ戦争の本筋にはほとんど関係がない。有名になりたい病にとりつかれて、一人で好き勝手に暴れまわって調和を乱しているだけ。人気キャラなので入れてみました的、ん、主役だったっけ。あ、そう。アキレス腱の由来について神話では、神の血を引く不死身のアキレスにも弱点があると、神がパリスに入れ知恵するらしいが、神不在の映画ではたまたまかかとに矢が刺さり、それが相当に痛かったらしいふうで、そりゃ痛かろうが、タマ蹴りとどう違うんかと。
木馬エピソード。有名すぎるから割愛するわけにもいかずに、みるからに駆け足。いくらなんでもあんなにいかにもあやしげな木馬(しかもでかすぎ)を城郭内に入れるか?というトロイ人の選択も原話ではそれなりに説明されているらしい。映画では「立派だから祭壇に捧げよう」「そうだそうだ、そうしよう」と、花いちもんめかよみたいなノリ。みんなアホだから仕方ない、滅んだのも仕方ないという仕上がりになってしまっている。炎上するトロイの街を城郭から見下ろすピーター・オトゥールの眼差しには、国王が己の失策を悔いながら亡国の瞬を見届ける心痛がにじむ。しかしすべてはあとの祭り。
トロイのヘレン。監督の審美眼に叶った新人女優を起用。美人は美人。アンドロイドタイプだが親しみやすい美貌。傾国の美女には、も少し近寄りがたさを感じさせるか、好悪が割れる個性があったほうが説得力があったかもしれず。ところで原話のヘレンはこの後、スパルタ王の所に帰ったんだそうで、映画でそんな展開にしたら避難ごうごうだったでしょう。いろんなシガラミやヒューマンドラマ化のアレンジで変更されている設定は数知れず。そのへん比べてみるのも楽しかろう。
この映画で株を上げた人、

株を下げた人、

「面白いか面白くないか」と問われれば、「面白くなくはないけど」と、「じゃあ面白いんだ?」と直球でこられたら……ううう〜ん(伸び)。ああ、肩が凝ったなぁ。