野尻抱介著『太陽の簒奪者』

2006年水星の表面から噴出した鉱物が太陽の周囲にリングを形成しはじめる。地球の日照は不足し絶滅の危機にさらされた人類はリング破壊ミッションを開始する……星雲賞SFマガジン賞受賞の傑作短編の長編化作品。
ハインラインとかクラークのような、ちょっと懐かしめの壮大な浪漫を感じさせる味わい。タイトルからもそんなとこは感じ取れるでしょ。うまいよね。太陽の簒奪者。ソソるソソる。
きっちりとディテールにこだわったSFなので、ハードSFを読みなれていないと小難しく感じるSF用語がわらわらでてくる。うへーとなるトコもあったけど、日本女性が主人公なのでとっつきはよい。難しいとこはなんとなくわかったつもりで読み流しちゃえばいいもんね(これはSFを読むときのアタシの鉄則)。
2006年太陽リングを定点観測から発見した高校の天文部員だった白石亜紀は、やがて科学者としてNASA入りし、2041年に異星人との接触という念願を実現させるべく宇宙戦艦に搭乗する。女性科学者と異星人の遭遇といえばまさに『コンタクト』なんて映画なんてのがまず念頭に浮かぶ。亜紀のストイックなイメージはジョディ・フォスターの役になるほど近いかも。
個人的に好きなシーンは、宇宙戦艦が発進するときに特別番組のなかから乗員がそれぞれに好みの曲を選択して聴いているくだり。「スターウォーズ組曲」「タンホイザー」「英雄」「ステンカ・ラージン」…今の心境にはどの曲がふさわしいかなんて考えながら。と、もうひとつ。異性人の船の速度に感動した古典SF愛読者の「これじゃまるでキャプテン・フューチャーだ」と言う台詞。ふふ、涙滴型のコメット号ですな。アタシも古典SFにはまっていた時期がありますもんで。