久坂部羊著『廃用身』

リハビリしても回復の見込みがない身体の部位(脚、手など)を廃用身という。あるデイケアセンターで廃用身を切断するという画期的な老人医療が試みられたが…。
本書は正真正銘の小説ではあるのだが、はたしてこれをフィクションと言い切ってしまっていいのだろうか。読後に呆然とする。そして、あるいは?と思う。老人介護の未来にはこうした医療がありえるのではないか。その是非を決める境界線は人間の「畏れ」の感情が生み出す諸々である。しかし…。著者は現役の医者である。本文もまるきりノンフィクションを模しているので、読者はいつしか自分が読んでいるのがあるいはこれは実話なのかとの錯覚を起こしはじめずにいられない。これが処女作とはおそるべき新人が登場したものだ。