『フロスト×ニクソン』

期待通りに面白かった〜。
映画の元になったインタビューは見たことないし、ウォーターゲート事件もよく知りません。きっとアメリカ人ならばすぐに「ああ、そのインタビューならもちろん見てたよ」と思い出して語りだすんだろうね。ニクソン元大統領が、どんな顔でしゃべり方で、癖や噂があったかも、それは田中角栄がどんな人だったかすぐにイメージするみたいな感じなんだろうと思う。でも元大統領も事件も名前ぐらいしか知らなくても映画として楽しめるエンターテイメント性がある。二人の男の対決に、痺れると思うよ。
「今彼にインタビューできたらおもしろいんじゃない?」ぐらいの軽いノリでこの一大イベントに手を出してしまったバラエティ司会者フロストは、途中で資金繰りに悩まされ、得意のトークでも完全にニクソンに貫禄負けして落ち込む。ニクソンは政治家の手馴れたトークでフロストの質問を煙に巻き、口を挟ませる隙をまったく見せない。まさに独壇場で、その口達者ぶりにはフロストばかりか観客も、いらいらしながら敬服せずにいられないだろう。
ニクソンはほとんどすべてのシーンでフロストに完勝し、次の選挙に出馬したら当選するだろうと予測できるほどに汚名を返上することに成功していた。
ニクソンにとってフロストは敵ではなかったのだ、最終日のトークまでは…。
(***えーと、ここからややネタばれ入りますのでお気をつけて***)
インタビュー最終日、ついにフロストは反撃を試みる。しかしニクソン最大の敵は目の前にいるインタビュアーではなかった。彼の敵は彼自身の中にいたのだ。土壇場で政界へ帰り咲く夢を打ち砕かれるニクソン、その数瞬の彼の表情を見損なうべからず。
インタビューを終えてプロデューサーはいう、
「今までの何十分ものトークよりも、今日のあの一瞬が捕らえたニクソンの表情こそがすべてを語る。それだけが視聴者の記憶に残るのだ」
その映像は観客の胸にもおそらく深く記憶に刻まれるだろう。名優フランク・ランジェラの名前とともに。