横山秀夫連作ミステリ『ペルソナの微笑』

今日は風が強かったので、録画しておいたドラマを消化。

静岡で青酸カリによる殺人事件が発生。13年前に起きた同様の事件との関連を新人刑事・矢代勲(金子賢)が追うが…。

TBSでは横山秀夫の警察小説連作集『第三の時効』から定期的に映像化している。山梨県警を舞台にした連作で『沈黙のアリバイ』、『第三の時効』、『密室の抜け穴』ときてコレが4作目。残念ながら1作目は見逃したが、2,3作目では見始めて10分もしないうちに瞠目し、身体をこわばらせたままテレビの前に座り続け、終わったとたんに「うううむ、おもしろかったー」と伸びをしたものである。座って一つのものを観続ける集中力がめっきりなくなったアタシをして2時間も縛り付けるとは、これはすごいこと。
4作目『ペルソナ』も期待にたがわぬ出来であった。原作がよい。原作がよいのは当たり前、かくいうアタシは横山秀夫ファンだ。脚本よし、演出よし、そしてなにより配役が適材適所である。
特に注目は段田保則。元公安出身の現捜査一課二班・楠見班長を演じている、冷徹非道の一匹狼、無表情な冷血ぶりがかっこよすぎなのだ。うーん、この段田には惚れる。登場するたびに心の中で「きゃあきゃあ」喜んで拍手喝采してしまう。
でも一人だけがよくてもドラマは成立しない。
本編の主人公は楠見の元で働く新人刑事・八代勲。いつもへらへら笑っている軽佻男のようだが、実は子供の頃に誘拐事件の犯人に協力させられ以来心底から笑ったことがないというトラウマを抱えている。演じる金子賢の軽さと重さの配分が自然で絶妙、金子賢ってこんなに巧かったっけ。いかにもこんな刑事いそうだなというビジュアルも○。事件のキーマンとなる青年・阿部勇樹役の高杉瑞穂も巧く、この二人のシーンは掛け合い漫才みたいにテンポがよい。そこがともすると舞台チックで唯一気になるトコでもあったのだが、それを阿部青年が劇団員であるという設定が救う。劇中劇のハムレットはちとうざかったが。ところで高杉氏って綺麗な顔しているね。ま、それはどうでもいいか。
脇も締まっている。
組織重視官僚派の寺田農、人情派の橋爪功とデカ部屋ボスの住み分けは類型的だが、リアルさを感じさせる。関連事件の調査で訪れた静岡県警・安川係長の佐戸井けん太が、ねちねちした縄張り意識から情報をうまく小出しにする。こうした名のある演技派は当然として、たまに一言エキストラで「おいおい、ここでなんでそんな棒読みさすねん!」と興ざめさせられることがあるが、このシリーズではいままでそういう苛立ちを感じたことがない。聞き込み先の食堂の従業員らまでも、劇中にすんなりはまっている。端役まできっちりと演技指導がなされていてこそドラマは引き締まるのだという見本。
とにかくよくできていて、原作ファンも納得である。甘くてぐだぐだの2時間ドラマとは一線を隔す。必見。映画館で観てよかった映画がテレビで見るとつまんなかったりするのはスクリーンの大きさとCMのせい。スポンサーには申し訳ないがせっかくの緊迫感を途切れさせたくないので、ビデオにとってCM飛ばして一気にみてほしい。